一度所有したモノにその価値以上の価値を見出してしまい、手放しづらくなる心理を保有効果といいます。
まるで、モノを捨てられない人の心の内を見透かすような心理現象ですよね。不要でも決してモノを手放そうとしない人たちは、自身が保有効果に陥っていることに気づいていないのかもしれません。
本記事ではこの保有効果について、意味と実験例を分かりやすく解説したうえで、「モノを捨てられない」人が持つ考えについて説明します。
最後まで読んでいただければ幸いです。
・保有効果とは
・保有効果の検証実験
・保有効果と「モノを捨てられない」人間
保有効果とは、ヒトは所有しているモノに対して、その本来の価値以上の価値を感じてしまうという心理を持っているのでは、という仮説です。
この心理現象が発生すると、そのモノを売ってもいい価格(WTA: willingness to accept)がそのモノを買ってもいい価格(WTP: willingness to pay)を上回ります。
例えば、あなたが捨ててもいいと思っているシャツがあるとします。それを試しにリサイクルショップに持って行ったところ、100円で買取りといわれて「安すぎる!」と感じてしまう。
捨ててもいいと思っているということはそのシャツにあなたは大して価値を感じていません。もし友達がそのシャツをあなたに100円で売りたいと言ってきたら、あなたは「100円だとちょっと高いな、そもそもいらないし」と思うでしょう、
しかし、100円で売ってと頼まれたら「安いから売りたくないな」となってしまうのです。
Daniel Kahneman、Amos Tverskyという2名の心理学者・行動経済学者とともに研究を行ったRichard Thalerという行動経済学者が提唱しました。
それまでも心理学者により同様の心理現象の存在がほのめかされていましたが、それに保有効果という名称と論理的な説明を与えたのがRichard Thalerです。
英語ではこの心理は endowment effect と呼ばれており、これを適当な日本語に翻訳して「保有効果」となりました。
また、日本では「授かり効果」と呼ばれることもあります。これは endowment(寄付、授かりものという意味の英単語)が由来しています。
実験は上述の3名の研究者: Daniel Kahneman、Amos Tversky、Richard Thalerによって行われました。
ヒトは一度所有したモノに関して、それ以上の価値を見出してしまうのかどうかを検証することが目的です。
実験では、被験者を2つのグループに分けて、片方のグループにはマグカップをプレゼントします。そして、マグカップを得たグループにはいくらでそれを売りたいか、マグカップをもらっていないグループにはいくらでそれを買いたいか尋ねました。
・グループ1:マグカップをもらった。そのマグカップをいくらで売るか尋ねられる。
・グループ2:そのマグカップをいくらで買うか尋ねられる。
すると、グループ1の提示した値段で代表的なものは7.12ドル(売りたい)、グループ2の代表的な値は3.12ドル(買いたい)となりました。
なお、もともとそのマグカップは6ドルだったとのこと。
マグカップを一度所有した人たちは、そのマグカップへ高めの価値を与えていたということになります。
Ziv CarmonとDan Arielyの2名の行動経済学者は、NCAA(全米大学体育協会)が開催するあるスポーツの大会のチケットを用いて実験をおこないました。
マグカップの実験と似ていますが、こちらの実験においては被験者間における売りたい価格は、買いたい価格よりも14倍高くなったそうです。
保有効果には当初、その存在を裏付ける論理として「損失回避」が挙げられていましたが、その案は批判されてしまいました。損失回避ではなくて「所有していること」がこの心理現象の鍵であろうと指摘されたのです。
その後も様々な研究者によって裏付けるための考察が施されています。
保有効果の存在をギモン視する意見・批判も存在しています。上述のマグカップの実験を他の学者が試したところ、保有効果が存在するといえるほどの裏付けをとることが出来なかったという報告もあります。
また、マグカップに対して人がとった行動を、人がその他のモノに対してもとるかという点に対するギモンなどもあります。
いずれにせよ、確実に存在するとは言えないまでも、そのような心理を人が持つことがある、と捉えておくとよいでしょう。
「断捨離したいと思っているがなかなかモノを手放せない」「家族がためこみ人間で、不要なモノを処分するよう説得しても聞く耳を持たない」。このような悩みを抱えている人は多いでしょう。
もちろん、そのモノを所有し続けた方がいい場合もあります。これから使う予定が頻繁にあったり、資産的な価値があるのなら保持することに意味はあります。
しかし、ほとんどの場合、使わない・価値のないモノに住まいの空間を占有されてしまっているだけです。むしろ、奪われてしまったスペースの分、土地代・家賃をムダにしてしまっている可能性もあります。
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