ローボール・テクニックとは、はじめに相手が受け入れやすい条件で依頼し、後にその条件を相手にとってより受け入れがたい条件へすり替えて、そのうえで相手にもう一度、受け入れてくれるかどうか尋ねるという交渉術です。
ビジネスでよく用いられるとされていますが、それを家族間に利用してみましょう。例えば、親がモノを「捨てる」ことを拒むのであれば、「譲る」「買い取ってもらう」と伝え、手放すことを了承してもらいます。
それに了承してもらうことが出来れば、相手の気持ちも代わり、「最終的には処分することになった」と伝えても受け入れてくれるかもしれません。
・ローボールテクニックについて
・ローボールテクニックの実験
・ローボールテクニックを家族の説得に応用
ローボールテクニックは、交渉や説得を行う際に、相手からYESを引き出すためのコミュニケーション方法のひとつ。あなたが提示した依頼に、相手が「いいね!」と思う交換条件・オプションを付け足していき、いちど「YES」をもらったら、それらの条件に対応できなくなったと伝え、「それでもYESでいいですか?」と再度尋ねます。最終的な決断は相手へ委ねます。
元々、営業・販売などのビジネスにおいて使われていたと知られています。
ローボール・テクニックという名称は英語(Low-ball)の直訳です。日本では「承諾先取法」「特典除去法」と言い換えることもありますが、ローボール・テクニックと呼ばれることの方が多いです。
・店員「このエアコンなら現在30%オフの価格でお買いあげ頂けますよ!」
・客「すごい!そんなに安くなるんだ。」
・店員「人気なので、お早めの決断がいいかと思います・」
・客「じゃあこれに決めちゃおうかな!」
・店員「了解しました、少々お待ちください。」
数分後
・店員「申し訳ありません、確認したところ割引と工事費無料サービスは併用できないようで...。いかがなさいますか?」
・客「う~ん、どうしようかな。一度決めたし、買っちゃおうかな...。」
合コン1週間前
・A「友人のイケメンを連れてくるから、〇日に集まろう」
・B「ほんと!?分かった!」
合コン当日
・A「ごめん!イケメン来れなくなっちゃった!今晩どうする?」
・B「え~、でももう友人にも声かけちゃったし...。とりあえず集まろう」
上の例を見てもらっても分かる通り、ローボールは後出し的であり、悪い言い方をすれば相手をだますウソのような形をとります。
もちろん、「こうなることは意図していなかった」というかたちで、最後の決断は相手に委ねますが、使い方を間違えれば信用を失いかねない、ということは容易に想像できます。
また、必ずしも上手くいくわけではありません。上に挙げた例でも、断るのは自由です。
アリゾナ州立大学の心理学科に所属するRobert B Cialdini(チャルディーニ)教授は、もともと実社会におけるセールスで多用されていたローボールの手法について、その効果や現象が本当か確認するため、以下の実験を行いました。
ランダムに選ばれた心理学科の大学生63名へ「実験へ参加してくれないか」と声をかけました。
・【ローボールではない方】一部の生徒へは、「朝の7時から行われる実験があるんだけど参加してくれないか?」と尋ねます。
・【ローボールの方】残りの生徒へは、「実験に参加してくれないか?」とだけ尋ね、了承してもらったら「朝の7時からなんだけどそれでもいい?」と再度尋ねます。
なお、実際に生徒に対して依頼を行ったの人物はチャルディーニ氏ではありません。また、この人物に対しては、この活動がローボールテクニックを観察するためのものであるとは知らされていません。
依頼された生徒の行動は、2つの視点から観察されました。ひとつは、口頭でひとまず依頼を承諾すること。もうひとつは、実際に依頼された時間に姿を現すのか(口頭での約束を守るかどうか)。
結果は以下のようになりました。
【ローボールでない方】
・依頼に対して、口頭で承諾: 31% (29名中9名)
・予定された時間に姿を現した: 24%(29名中7名)
【ローボールの方】
・依頼に対して、口頭で承諾: 56% (34名中19名)
・予定された時間に姿を現した: 53%(34名中18名)
結果として、この実験の結果においてはローボールの方が実際に承諾してもらいやすく、また実際に行動に移してもらいやすいということが分かりました。
一度決断した行為に関しては、たとえその行為にかかるコストが決断後に大きくなったとしても(決断した本人にとって)、その決定(もしくは決定した自分という一貫性)を維持する傾向がある。これは、100%明らかとなったわけではありませんが、認知的不協和や一貫性の原理といった心理的作用によるものだと考えられています。
このローボールテクニックは、上述したように元々はビジネスにおいて利用されていた交渉方ですが、チャルディーニ氏の実験からも分かる通り、ビジネス以外の場面でも応用できる、と一般的に認識されています。
実家をモノで溢れたままにしている親や、業者への清掃依頼を拒む家族と話す際に応用できそうです。
例えば「捨てる・処分する」ということに抵抗を示すなら、「譲る」「買い取ってもらう」といった方法で手放すよう声をかけてみてもいいかもしれません。
ただし、ローボール・テクニックは上述の通り、悪く言えば相手をだますコミュニケーションです。ローボールを試す際はそのことを頭に置いて、家族の信頼関係を壊してしまわないよう注意しましょう。
全く使っておらず、ただ場所をとるだけの不要なタンスが実家にある。母親に捨てるよう説得しても、「いつか使うかもしれない」「粗大ごみは捨てるとお金がかかる」と聞く耳をもたない。
そのタンスに、金銭的な価値がないことは既に知っている。
そこで、「リサイクル業者が買い取ってくれるかも」と相談する。「金額はだいたい〇〇円くらいになるかも、実際に見てみないと分からないと言っていたけど」と声をかけて、「買い取ってもらえるなら」と承諾を得る。
そこで、後日写真を業者へ送ってみたら、このタンスは無料なら現地訪問で引き取ってくれるといわれた、と伝える。そのうえでそれでもOKなら業者へ問い合わせよう。
いちど近所のリサイクルショップに問い合わせてみて、実際に買取もしくは引き取りをしてもらえるか聞いてみる。扱っていないということであれば、処分業者へ問い合わせる。
処分業者へ依頼した場合には、母親には「無料で引き取ってもらったてい」にしておいてもいいかもしれない。