「ダブルバインド」は危険?片付けられない親・家族を説得するコツ

片付け・掃除を行うよう家族へ伝えても取り組んでくれないのは、誤った説得のせいかもしれません。ダブル・バインドに注意しましょう。

内容の要約

片付け出来ない・モノを捨てられない親や家族に対して、「(あなたの幸せを思って言うけど)早く片付けなさい」と伝えたことがある方は少なくないでしょう。

しかし、そのメッセージを受け取った人にとっては「モノを捨てると幸せじゃなくなる(今が幸せだから)」、「でも、片づけをしないと家族関係が悪くなる(家族関係を良好に保ちたいと考えているのにも関わらず)」という、どちらの選択肢も好ましくないという状況になります。

これがダブルバインドです。あまり良い説得法とは言えないでしょう。

本記事では、ダブルバインドの概要と具体例などを詳しく解説していきます。

本記事で解説する内容

・ダブルバインドとは

・否定的ダブルバインドと肯定的ダブルバインド

・ダブルバインドの応用における注意点

ダブルバインドとは

ダブルバインドって何?

ダブルバインドとは、ある人が内容が矛盾する複数のメッセージを同時に受け取ったうえで、そのメッセージに向き合わなければならない状態を意味します。このとき、メッセージは言葉である必要はありません。

もともとは、統合失調症患者が共通して持っている家庭内での経験という仮説として、グレゴリー・ベイトソンにより提唱された概念でした。ただし、あくまで仮設であり、統合失調症との関連を説明することは難しいとされています。


現在は、コミュニケーションの方法について考える際によく用いられる概念です。

グレゴリー・ベイトソンについて

グレゴリー・ベイトソン(1904 ~ 1980)はイギリス出身の研究者。1935年頃に自身の研究や仕事のためにアメリカへ渡っています。第二次世界大戦の間(1939 ~ 1945)に、アメリカ合衆国の戦略サービス局(Office of Strategic Services)へ使わされ、ラジオで放送されるプロパガンダの制作などへ携わっていたこともあるそうです(なお、当時は多くの人類学者が人間心理への見識を見込まれて、望んでいないにも関わらず同様の取り組みに従事させられていたとのこと)。

ある人が矛盾する2つのメッセージを与えられた状態を「ダブルバインド」と名付け、ダブルバインドという概念を作り出しました。

ベイトソンは、統合失調症の研究のために精神病棟で行ったフィールドワークを通してダブルバインドというアイデアを発見しました。そして、家族により施されるダブルバインドが統合失調症の原因の可能性があるかもしれないと、必ずしもそれが原因とはならないと前置きしつつも、提案しました。

否定的ダブルバインドと肯定的ダブルバインド

2つの違いは?

否定的・肯定的ダブルバインドは、ダブルバインド状態に置かれる人にとって悪いことか、良いことかという違いがあります。

否定的ダブルバインドではどのような行動をとっても「負け」、肯定的ダブルバインドではどのような行動をとっても「勝ち」となります。

統合失調症の原因ではないかと仮説を立てられた方は否定的ダブルバインド。肯定的ダブルバインドは、ミルトン・エリクソンという精神科医が、カウンセリングの際などに利用していたといわれています。

否定的ダブルバインドの例

静かに時間を過ごしたい兄と、構ってもらおうとちょっかいを出してくる幼い弟がいます。兄はそれを不愉快に思い、おとなしくするよう口で言っても聞いてもらえないため、弟を小突きます。

それを見た母親が、兄へ向かって「弟へ手だしするな」と言います。もし、次にちょっかいを出す弟へ抵抗すると、母親による何らかの罰がまちうけており、静かな時間を邪魔されてしまいます。かといって、母親の指示に従っていると、弟が仕掛けるいたずらをどうにも出来ません。

母親は聞く耳を持たず、事情を説明するため言い返そうとしても罰を与えることが予測されます。

肯定的ダブルバインドの例

頼みごとをされたり、勧められたりすると断ることが出来ない人(Aさん)がいます。そんな自分を変えたいと思い、カウンセラーへ相談しました。

カウンセラーは「じゃあ、これから一緒に街を歩いて、勧誘の人が声をかけてきたら断ってください。」と言います。

Aさんは、カウンセラーに言われたことを断ることが出来ない場合、その依頼に応えるため勧誘の人が声をかけてきた際は実際に断らなければなりません。もし街へ出て「断る」というアクションを不可能だと考えるなら、Aさんに言われたことを断る必要があります。

どちらも難しいと感じ、黙ってしまった場合、その間「断れない」という行動を示さない状態を維持できています。

いずれの場合も、Aさんは変わりたい方向(断ることが出来るようになる)へ進むことが出来ます。

ダブルバインドの応用における注意点

片付けるよう説得する際の注意点

まずあなたが、被説得者をダブルバインドへ陥れないよう注意する必要があります。

掃除をしたくない・身の回りにあるモノを捨てたくない家族のメンバーAがいるとします。ただし、家族の他のメンバーとの関係は良好にしておきたいと考えています、

このAに対して、強い口調で「いつまでに片付けておいてください」と言ってしまいがちなはずです。

このとき、言われた方は「片付けはしたくない」「でもしなければ、次会った時に怒られる」という状態になります。加えて、「強い口調」には反論する余地を与えない、反論すると一触即発で大げんかになる、という含みがあります。

どれを選択しても、Aが望んでいる状況ではない=負けとなります。

もたらされる結果は、Aと家族の関係性にもよりますが、例えば、今後コミュニケーションそのものを拒否するようになってしまうかもしれません。

よくある勘違い・間違い


よく、ダブルバインドを応用した例として以下のようなケースが挙げられます。しかし、これは厳密にいうと間違いです。


【声をかける際のダブルバインド応用としてよく紹介される例】
YES・NOの質問ではなく、A or Bどちらがいい?と尋ねる。そうすることでNOという選択肢を前提から消すことが出来る。


→ 片付け・モノの処分をお願いする場合、「今度、片付けしよう」ではなく「今度、居間か寝室を片付けよう」と声をかける。


【間違っている理由】
相手が、どちらの選択肢もイヤな場合は、「どちらもいやです」と言われてしまったり、その場だけうまく取り繕って後日キャンセルの連絡があったり、とうまくいきません。

むしろ、相手にとっては「なんでこの人はこういう聞き方をするんだろう」とストレスを感じてしまうかもしれません。


これが、肯定的ダブルバインドもしくはエリクソニアン・ダブルバインドの応用として解説されますが、そもそも肯定的になっていないわけです。


重要なのは、まず相手が何を望んでいるか・考えているかを察知することです。

肯定的ダブルバインドに近い例

例えば、あなたが久々に実家に帰ると相変わらずモノが溢れていて、片付けた方がいいなと考えたとします。

実はあなたの親も片付けたいなと思っていますが、腰を痛めていて動き回ることが出来ません。かといって、忙しくしているように見える子供へ片づけを依頼すると負担をかけてしまうのでは、と考え手伝うよう頼むことが出来ません。

この場合、「もっとキレイにしたら?」と声をかけるよりも、「居間と寝室、どちらか今度一緒に掃除しよう」と声をかけるほうが親としては返事しやすいでしょう。

家族とのコミュニケーション時は、ダブルバインドに注意【総括】

特に家族とのコミュニケーションにおいては、築き上げてきた関係性にもよりますが、つい事情を聞かずに依頼・命令を行うことで、相手をダブルバインド(もしくはそれに近い状態)にしてしまいがちです。

相手にストレスを与えないよう気をつけましょう。

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