・現状維持バイアスとは
・現状維持バイアスの実験例
・現状維持バイアスが起きる理由
・モノを手放せない人と現状維持バイアス
現状維持バイアスとは、変化よりも現在の状態を維持することを優先してしまうひいきの心理です。
この心理は一度購入したモノを不要であるにも関わらず手放そうとしない人にも当てはまりそうですよね。「処分しない」という選択肢をひいきして、そちらの方が良いと思い込んでしまっている可能性があるといえます。
例えば、日本では携帯電話回線の大手キャリアに加えてMVNOという格安で回線を提供する会社が増えています。乗り換えることで、月の契約費をかなり抑えることが出来ます。
それでも、乗り換えずに、はじめて携帯を購入した時のまま大手キャリアを使用し続けている方もいるでしょう。
ちゃんと調べてプランを検討すると、確実に安くすることが出来るにも関わらず、「大手じゃないと不安」などといった漠然とした理由で行動を起こさない。
その原因は、様々だとは思いますが、現状維持バイアスもそのひとつでしょう。
バイアスとは、感情などにより引き起こされる考え方・ものの見方などの偏りのことを指します。
例えば、学校において教師は言うことを聞く速い生徒も聞かない生徒も、成績は平等な判断基準で決定しなければなりません。しかし、ついつい前者の生徒に対して、本来よりも甘めの判断基準で評価を下してしまった場合。
これはひいきであり、バイアスです。「あなたの考えはバイアスがかかっている」といった使い方をします。
重要なのは、現状維持バイアスは「他の可能な選択肢と比較して、現在の状態が明らかに良い」と考えることとは違う、ということです。
もしあなたが現状を維持するか、新しい変化を受け入れるか決断を迫られた際。きちんと比較検討したうえで現状が新しい変化よりも優れていると感じて、現状を維持する決断をした。これは現状維持バイアスがかかっているとは言いません。
変化を受け入れた方がよいことが明らかであるにも関わらず、現状を保ちたいと思ってしまうことが現状維持バイアスです。
1991年にRaymond Hartmanなどによって行われた実験。カリフォルニアの電力会社からサービスを受給している方々を被験者として行われました。
当時、電力供給サービスには2種類のプランがありました。以下の2つです。
プラン1:プラン2よりも信頼性/安定性は高いが、料金も高い
プラン2:プラン1よりも信頼性/安定性は低いが、料金は安い
それぞれの加入者をグループ1、グループ2とします。この2つのグループに、6つ用意された料金プランを提示し、そのどれに加入したいか尋ねます。
6つのプランはそれぞれ、信頼性/安定性と料金のバランスが異なります。最も価格の高いプランは最も信頼性が高く、最も価格の安いプランは最も信頼性が低いです。
そしてこの6つには、現在提供されている2つのプランも含まれています。
どちらを選ぶかアンケートを行ったところ、以下のような回答率となりました。
グループ1(プラン1加入者):60.2パーセントが現在加入しているプランの信頼性/安定性と料金のバランスのプランを選択した。
グループ2(プラン2加入者):58.3パーセントの人が、現在加入しているプランの信頼性/安定性と料金のバランスのプランを選択した。
いずれのグループにおいても、新たな選択肢が用意されたにも関わらず現在加入しているプラン内容を選択するという結果となりました。
現状維持バイアスとは、現在の状態・状況を好み維持しようとするヒトの心理です。
言い換えると、現在の状態を基点にして、そこからの変化を「損」「デメリット」などと思い込んでしまうということです。
行動経済学などの学問やビジネスの現場などで、ヒトの行動や決断を考える際に用いられることが多い用語です。ちなみに、英語では status quo bias といいます。
モノを手放せない人に対して「どうしてそんな不要なモノを処分しないの?」と一方的な考えを押し付けてしまう人は多いと思います。
しかし、これまで現状維持バイアスについて解説してきて分かった通り、むしろ「手放す」という変化よりも「保持する」という状態を維持しようとする姿勢はヒトの心理としてむしろ一般的なのです。
しかし、バイアス無しで考えると、ほんとうに邪魔で不要なモノであれば手放した方が色々とメリットがあることがあります。
【メリットの例】
・スペースの有効活用
・家族の要望に応えることで関係がよくなる
・より清潔な状態を保ちやすくなる
バイアスなしで考えるには、自身がバイアスを持ってものごとを見ているとまず自覚する必要があります。